
横浜FC三浦知良選手/専属調理師 石川勝則氏インタビュー
――本日はお忙しいところお時間をいただきましてありがとうございます。早速ですが、まず、どういった経緯でカズ選手の専属調理師になったのですか?
もともと私は和食の出身です。割烹とか寿司ですね。
でも、将来的には和食だけではなく、いろいろな分野で活躍できるようになりたいと考えて、98年に今の会社(株式会社レオック関東)に入社しました。
以来、老人施設とか病院の食事を作ってきたのですが、ある日突然うちの常務から電話がありまして、「来週からシドニーに行って欲しい」と。(当時、カズ選手は横浜FCからシドニーFCに移籍)
もう、本当に驚きました。
今になって聞いてみると、カズ選手がシドニーFCに移籍して以来、脂っこいものが多い海外の食事のせいで栄養のバランスが狂ってしまっていたそうです。
そこで、横浜FCのスポンサーをしていた弊社が食事面のサポートを始めるキッカケとなったわけです。
――突然シドニーに行って欲しい、しかも、相手はカズ選手ということで気負いや不安はありませんでしたか?
もちろん、ありました。「マジかよ……」と思ったりもしましたね。
ただ、不安は大きかったですが、断ろうとは思いませんでした。
もちろん、失敗して後悔するかもしれない、とも思いましたが、何もしないで後から後悔するのだけは絶対に嫌でしたから。
――英語や土地勘など、シドニーで苦労はありませんでしたか?
苦労しました……。
旅行会社の方に半日だけ付き合っていただいて、食材の仕入れに使えそうな場所を教えていただいた以外は、結局全部一人でやりくりすることになりました。
英語は満足にできませんし、食材もよく見ないとなかなか納得出来るものが無かったりと。
ただ、カズ選手や関係者の方々がとてもよく接してくれたのが救いでした。
1ヶ月間、同棲生活でしたから(笑)。
――初めてお会いしたカズ選手はどんな方でしたか?
すごく気遣っていただいているな、というのは感じました。
いつも私の料理を「美味しい!」と言ってくれますし、ファンの方もすごく大切にしています。
できる限りサインもご自分で書いておられるし、ファンレターも必ず目を通して大切にしておりますし。
あれほど地位も名誉もある方なのに、こんなに気配りができるということに本当に驚かされました。
――石川様と出会うまで、カズ選手はどんな食生活を送っていたのかご存知ですか?
トレーナーの方に「これを控えたほうが良い」、「これを摂った方が良い」と言われたものを気にしていた程度だと思います。
朝食がコンビニのおにぎり、ということもたまにあった様です。
ただ、カズ選手のプロ意識は私が担当させてもらう以前からかなりのものでしたから、普通の選手より良い食生活をされていたことは間違いないと思います。
食べたいものを我慢し、飲みたいものを我慢する生活を続けていたみたいですよ。
とにかく、ストイックな方ですから。
――帰国後も石川様がカズ選手を継続して担当していらっしゃるということは、カズ選手も石川様を本当に必要とされているのでしょうね。
そうだと良いですね(笑)。
でも、オーストラリアで私が担当するようになった最初の3日で体重や体脂肪の数字が劇的に改善したんです。
カズ選手自身、本当に驚いていましたね。
私が担当するようになってから体調が良い、という話もよくしてくれます。
お世辞かもしれませんが(笑)。
――やはり食事というのは、アスリートにとって非常に重要な要素ですね。
自分の仕事だから、というわけではありませんが、実際にそうだと思います。
以前、カズ選手の友人のサッカー選手にも食事を作っていたことがあるのですが、その方が「自分も若いうちからこういった食事をしていれば、いま以上に体も動き、もっと活躍できたんじゃないかな……」としみじみおっしゃっていました。
私が食事の手伝いをするようになってから、コンディションはみるみる上がったらしいんです。
ただ、私にしてみれば、当然、という気持ちもあります。
毎日のコンディションと血液データやバイタル(脈拍、血圧、体温など)をチェックし、それを基に足りない栄養素を補っていくわけですから、
もともとケアを余りしない選手が食事を改善したとすれば、コンディションが上向きになるのは当たり前のことです。
――凄いですね。石川様の仕事で、「ここに注目して欲しい!」という点はありますか?
食事の面からアスリートが100%の力を発揮できるコンディションに整えるのは、
この業界の調理師として当たり前です。
その中で私が気を配っているのは、「それ以上のことが如何に出来るか」です。
例えば、「メンタル的にも如何にサポートするか」です。
具体的に言うと、カズ選手は試合前になると炭水化物しか摂取しません。
たしかに近年アスリートの食事と言うのは試合前になると炭水化物中心の食事が定番ですが、実際は炭水化物以外の物を取ってはいけないと言う事ではなく、タンパク質や脂質を余り取り過ぎないで炭水化物中心に変えていくんです。
カズ選手の場合は、パスタの中の少量のハムやうどんの具なども気になってくる様なので、極力シンプルにタンパク質や野菜などは入れないようにしています。
そして私のプライドもありますので、具の入っていない麺類でも常に美味しく作っていこうと言う気持ちもありますので。
おかげ様で今ではイタリアンや洋食、中華まで社内の調理師に研修等で教えています。
実際にはタンパク質を全くとってはいけない訳ではないのですが、カズ選手が精神的に心の底から安心して食事をとり試合に臨む事が出来る様、それは何が正解で何が間違いと言うレベルではなく、選手が100%以上の力を発揮するにはメンタルな部分で全くの不信感を持たずに試合に臨む事を大切にしたいからです。
カズ選手は気が付いていないかもしれませんが、実は私は試合前にカズ選手と1対1の真剣勝負をこっそりしているつもりです。
教科書通りの調理では、選手に100%以上の成果を発揮させることはできない、という考え方ですね。
――石川様が調理師の見習い中の方々にアドバイスをするとしたら、どんなことですか?
「特別な料理はない」ということです。
カズ選手に食べてもらう食事でも、食堂で出てくる料理でも、同じ気持ちで作らなければならないのです。
私がカズ選手の専属になる以前、老人施設に勤めていた際に痛感したことなのですが、老人施設には食事だけが唯一の楽しみという方が大勢いらっしゃいました。
そんな方々に気持ちの入っていない料理を出すということが、どんなに失礼なことか。
施設の生活の中での唯一の楽しみを奪ってしまうことになりますし、私から言わせてもらえば、そんなことはあってはならないのです。
ですから、それが病院だろうが料亭だろうが、同じだということ。
美味しい料理は、実は気遣いや技術で更に美味しい料理に変化すると思います。
偉そうなことを言っていますが、こういう気持ちを常に心掛けていないと人に何かをしてあげるような仕事は出来ないと思います。
――石川様がカズ選手から影響を受けた部分はありますか?
「他人への気遣い」です。
カズ選手にあれほど人気があるのは、やはりそれができているからでしょう。
私は、彼に本当に感動しています。
また、「自分で決めたことは絶対にやり遂げる」ということでしょうか。
カズ選手は、実はおはぎが大好きなのですが、食べすぎる事は有りません。
私が「今の体調ならもう一つ食べても大丈夫ですよ」と薦めても、絶対に食べることはありません。
一度、彼から「見えないところに(おはぎを)置いてくれ」と言われたこともありました。
また、とある時には、結構お酒が呑めると聞いていたので、練習して寝る、というだけの日々が続く合宿のときも、気晴らしに缶ビールを1本だけ勧めたのですが、結局一口も召し上がりませんでした。
なんだかこうなってくると、私のほうが情けないみたいですね。
とにかく、カズ選手は「自分が決めたことはルールのようにして徹底的に守ります」し、そういう姿勢が本当にカッコイイなぁと思います。
あとは、実は、髪型(笑)。
美容院で「カズ選手と同じに」と注文したんです。
ちょっと未だあまいのですが……(笑)。本人も喜んで下さいました。
――カズ選手からの言葉で1番うれしかったことは何ですか?
「私の食事のおかげで試合で最後までいい感じで走れたよ」と言って頂いたときです。
――サッカー選手が食事管理をしっかりしていれば、カズ選手のように40歳になってもプレー、出来るものなのでしょうか?
必ずとは言えませんが、可能性が高まるのは事実でしょう。
食事って、自分で管理しようと思っても、今の自分に何が必要で、その要素は具体的にどんな食材で補えて、その食材をどのくらいの量、タイミングで摂取して……等、とにかく、「知識」や「ノウハウ」がとても複雑です。
さらに、人間どうしても苦手な食材の1つくらいはあるでしょうから、それを嫌々食べるのも栄養学的にはよくてもストレスなんかを考えるとマイナスになってしまうこともありますしね。
だからこそ、「プロの知識とノウハウ、技術」が必要なのだと思います。
こんなことをいちいち気にしていたら、練習する時間なんてないでしょうし。
苦手な食材でも楽に食べられるよう工夫したり、他の食材で補ったり、なんていうのは、なかなか難しいのではないかと思います。
――カズ選手の専属調理師をしていて、1番困ったことは何でしょうか。
出会って間もない頃、「不用意にキッチンに入らないようにするよ。俺もフィールドの中に他の人が入ってくるのがあまり好きじゃないから」と言われたことがありました。
日本を代表する一流選手が「プロとして同じ目線で自分の仕事を望んでいるのだな」と、非常に重いプレッシャーを感じたのを覚えています。
ただ、実際は食事が待ち遠しくて「ご飯できた?」と言いながら、私の邪魔?をすることはよくありました(笑)。
逆にそれが、多少は認めてもらえたのかな、と思えて嬉しいことなんですけどね。
――最後に、カズ選手に言っておきたいことはありますか?
思い残すことがないよう、やれるところまでやって欲しいですね。
もし、いつの日にか引退したとしても世間から当然注目されるでしょうけれど、いつまでもカッコ良く生きてほしいと思いますし、「特別な人」であり続けてほしいです。
あとがき
ストイックなほどの練習と妥協しないセルフコントロールで知られるプロフェッショナルなカズ選手を支えていたのは、やはり、プロフェッショナルな調理師だった。
カズ選手に限らず役者だろうが歌手だろうが、多くのプロフェッショナルと呼ばれる人たちには、それを陰で支える偉大な黒子がいるということを再認識させられた。
「栄養管理は、できて当たり前」という言葉は、石川氏の並々ならぬプロ意識を感じる。
世間は当然にスーパースターのKing KAZUに注目していているが、その陰で石川氏がいることがアウトソーシングビジネスを手掛ける私たちには大いに刺激になる。
カズ選手が年齢にそぐわない脅威のパフォーマンスを現在でも見せ続けることができるのは、本人の類稀なる才能と努力があることは疑いの余地もないことだが、私たちはそんなカズ選手を影で支える石川氏も是非応援していきたい。
プロフィール
石川勝則(いしかわかつのり)
東日本調理師学校を卒業後、大衆割烹、寿司屋等を経て実家の寿司屋を継ぐ。
しかし、その後自身の将来を深く見つめなおし、株式会社メディカルサポート(現株式会社レオック関東)に入社。
老人施設や病院のマネジャー業務、本社勤務などを経て、2005年秋に三浦知良選手の専属調理師を担当。
現在に至る。
1967年生まれ、現在39歳。
※石川氏の関連ブログ
http://www.leoc-j.com/KAZU/index.html
株式会社レオックジャパン
設立:2007年4月2日
事業内容:病院・福祉施設、事業所給食受託事業会社等の管理
本社所在地:〒150-0011 東京都渋谷区東3-16-3 エフ・ニッセイ恵比寿ビル 3階
TEL 03-5774-7050 FAX 03-5774-7555
http://www.leoc-j.com/